議事堂を襲撃したダークトライアドな面々

すでに多くの共和党議員が異議を申し立てることを公表していたので、もちろん、何も起こらずに済むなどとは思っていなかったけれど、まさか、ここまでの大惨事が生じるとは想像できなかった。ジョー・バイデンの次期大統領選出を正式に/法的に承認する上下両院合同会議(Joint session of Congress)のことだ。その開催日である2021年1月6日は、アメリカ史の汚点として記録される日となった。

「世界を震撼させた、ファンタジーがリアルを超えた日:ザ・大統領戦2020(32)池田純一連載」の写真・リンク付きの記事はこちら

その日、アメリカ連邦議会議事堂(The Capitol)は、アメリカ市民の暴徒による襲撃を受けるという前代未聞の事件に見舞われた。白亜の議事堂への襲撃は、1812年の米英戦争以来、実に200年ぶりのことだ。

議事堂内で行われていた上下両院合同会議は、議員たちの避難のため、中断された。だがそれも当然で、なぜなら、暴徒たちの襲撃の目的はその合同会議の妨害にあったからだ。「ペンスを吊るせ!」と叫びながら、彼らは議事堂になだれ込んだ。

もちろん、ペンスとは、その日合同会議の議事進行役を務める副大統領のマイク・ペンスのことだ。その「ペンスを吊るせ!(“Hang Mike Pence!”)」というのは、ペンスが、彼ら暴徒の信奉するドナルド・トランプの依頼を反故にして、合同会議の席で、バイデンの勝利を覆しトランプに勝利をもたらすのを拒んだためだ。彼ら暴徒たちは、直前に、敬愛するトランプ大統領から受けた命令、いわば「勅命」を忠実に実行していたにすぎない。ペンスは会議開催前に、自分にはそのような権限はないとトランプに応えていたからだ。

議事堂を襲撃する前に、暴徒たちは、ペンシルヴァニア通りを隔てたホワイトハウスの前に集合した。トランプが求めた“Save America March(アメリカを救え!行進)”に参加するために全米から集まった彼らの前には、MCの高らかなアナウンスを受けてトランプが登壇し、いつものように彼お得意のスピーチを行い、聴衆に向かって発破をかけた。盗まれた選挙を取り戻すために議事堂へ行進せよ、そのために強さを示せ、と。

驚くことに、議事堂内部ではトランプの賛同者である共和党議員たち130名あまりが、彼のために2020年12月14日に実施された選挙人投票の結果を覆そうと尽力している最中であったにもかかわらず、その現場に群衆を向かわせた。ホワイトハウスのスタッフが漏らした言葉によれば、トランプはこの群衆/暴徒による行進/襲撃で合同会議が阻止されて、その結果、バイデン勝利の承認が不可能になると確信し、ほくそ笑んでいたのだという。それも群衆に対して「オレも一緒に行進する」と宣言しておきながら、その言葉に反し、モーターケードでホワイトハウスに引き返してきた後の発言だった。

結局、トランプは、その日、一度も議事堂に出向くことはなく、暴徒によって議事堂が荒らされていくさまを、いつもどおりテレビに釘付けになって観ていたと伝えられている。まさに高みの見物で、途中、議事堂内の合同会議の様子を見ては、ペンスは選挙結果を覆すことができるにも関わらず実行していない、と彼をなじる発言を、これもまたいつもどおりTwitterを使ってツイートしていた。今まさに暴徒たちが窓ガラスを割って議場の中へと雪崩を打って侵入していた頃にだ。暴徒たちの間でも、トランプのツイートはリアルタイムで確認できる。ペンスの背筋には冷たいものが走ったことだろう。

実際、すでに多くの報道映像が伝えているように、暴徒たちは各々がスマフォを手にしており、議事堂襲撃の様子を写真や映像に残していた。

中には、Dliveなどのサイトを通じて議事堂侵入の様子を中継/実況していたものもいた。参加している側は完全にスペクタクルとして、いや参加型のアトラクションとして、今回の襲撃を捉えていた。トランプの勅命にしたがっているため、悪びれる必要がないだけでなく、言葉の通り、この状況を大いに楽しんでいた者たちもいたのである。

ケンブリッジ・アナリティカ事件の内部告発者であるクリストファー・ワイリーには、あの事件が生じた経緯を告白した『マインドハッキング―あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア―』という本があるが、その中で彼は、スティーブ・バノンの求めに応じて、Alt-rightのような極右/過激派グループを組織化していくために、心理学でいう「ダークトライアド(暗黒の3大特性)」という心理特性を活用したと書き記している。その3つとは「ナルシズム(極端に自意識過剰な自己陶酔人格)」、「マキャベリズム(無慈悲で冷酷な利己主義人格)」、「サイコパシー(感情的に孤立する反社会的人格)」である。そのような類型の人物が、あの議事堂襲撃場面を、あたかもアトラクションを中継するかのように客観視したうえで享楽できるわけだ。ダークトライアド、恐るべし!

となると、あの陰惨な状況を生み出すべく信奉者たちを鼓舞しておきながら、ひとりテレビでその様子を見続けながらTwitterでさらなる刺激を与え続けることのできる大統領も、この3大特性の持ち主なのではないか、と思えてしまう。それならトランプ支持者の間でカルト色が高まるのも理解できるというものだ。

“Save America March”に参加した過激派グループの中にはQAnonも含まれていた。彼らのツイートを何度もトランプがリツイートし拡散してきたことは、2020年10月にマイアミで行われたタウンホールでも話題になっていた。オンライン陰謀論を信じるこの集団は、トランプが大統領に就任後、彼を「アメリカを裏から支配する(主には民主党の政治家や実業家たちからなる)ディープステイト」と戦う救世主とみなして崇拝する運動としてスタートした。QAnon信奉者からは11月の選挙で下院議員に当選した人たちもいたが、そのうちのひとり、コロラド州選出のローレン・ボーバート下院議員(共和党)は、暴徒が議事堂になだれ込んだ後、ペロシ下院議長(民主党)の所在をTwitterで報告していた。その事実が発覚し、辞任や逮捕を求める声が出ていたりする。陰謀論はメインストリームではない、などとはもはや言えない時代なのだ。

ペロシ下院議長の所在をTwitterで報告していたとされるローレン・ボーバート。BLOOMBERG/GETTY IMAGES

QAnonのほかにも、Proud BoysやBoogaloosなどトランプ支持の極右グループやミリシア(自警集団)の参加も確認されている。議事堂周辺には、ライフルを構えたものや南軍旗(Confederate Flag)──南北戦争中の南部連合の旗で今では白人優位主義者の象徴としても知られる──を掲げるものが多数見られた。議事堂の壁をよじ登り、窓やドアを破壊して議事堂内部に侵入し、まるでイナゴの集団のように議事堂の備品を破壊したり、窃盗したりしていった。中には脱糞すらしたものもいたのだという。単なる器物破損ではなく、アメリカの象徴を陵辱したわけだ。

世の中のネジが緩んでしまったのだろうか?

その一方で、これは事件後、明らかになったことではあるが、今回の暴動に参加した人の中には、退役軍人や地方の現役の警官もいた。議事堂警察の警官のなかにも、暴徒を諌めるのでもなく、一緒になってのんびりとセルフィーを撮っているものもいた。実際、議事堂内に侵入後、セルフィーを撮り、それをソーシャルメディアにアップする者たちも多数いた。当然、その痕跡から事件後、彼らはFBIによって逮捕されることになる。

そんな様子を見ると、世の中のネジがどこか緩んでしまったような感じすら受けてしまう。つまり、議事堂襲撃という「暴力」の大波の背後には、もっと弛緩した感じの「壊れた社会」があるような気にさせられるのだ。アメリカ社会は、割と真剣にヤバいことになっているのでないかと、アメリカのみならず世界中の「目撃者」に思わせるのに十分なものだった。

とはいえ、中継されていた時点で目を引いたのは、やはり、今この瞬間に振るわれ続けられる暴力の有り様だ。それは、911のときの、言いようもない不穏な感じを思い出させるものだった。目の前で理解不能な事態が生じている点で、911と今回の議事堂襲撃はよく似ている。

ROBERT GIROUX/GETTY IMAGES

2001年9月11日に起こった911(同時多発テロ事件)の際には、ハイジャックされた飛行機が2機、乗客ごとWTCへ突撃させられたという暴挙に目を見張った。今でこそ、テロリズムはごく普通のことのように語られるようになったが、当時は、旅客機を高層ビルにぶつけるという行為そのものが、戦争や外交のルールを根底から覆すものとして世界中に衝撃を与えた。西洋の国家間外交の埒外にある所業に誰もが呆然とした。振り返れば、確かにあの時から世界は異なるフェーズに入ってしまった。

今回の議事堂襲撃事件にも同種の理不尽さを感じる。まさか現職のアメリカ大統領が、ホワイトハウスのカウンターパートの一角である連邦議会の襲撃を促すような行為にまで走るとは思わなかった。しかもそのことに大統領自身、何ら悪びれるところがない。襲撃事件以後しばらくの間、トランプは公の場に姿を見せなかったのだが、1月12日、メキシコ国境沿いに建設された「壁」を視察しに行くため、メディアの前に現れた際には、襲撃には一切責任はないと応え、事件後自分に向けられる非難──大統領職の辞任の要請や、弾劾の動きなど──に対して、相変わらず民主党による「ウィッチハント(魔女狩り)」だと切り捨てていた。

それにしても、首都の議会での騒乱がまさかアメリカで起こるとは思わなかった。911から20年を経て、再び世界は新しいフェーズに入ったように思えた。アメリカがウクライナのようになってしまったと感じた人も多いのではないか。国家間戦争からテロリズムへ、次いで「ホームグロウン(自家育成)」の国内紛争へ、社会不安の所在が身近なところへと迫ってくる。

おそらく一番驚いていたのは、日頃、そうはいってもトランプの擁護、そして、トランプとともにある共和党の擁護に尽力してきた保守系の論客たちだろう。彼らはトランプが、そこまでの暴挙に至るとは思っていなかった。最後には慣例に従って、敗退宣言をすると見ていた。だが見事にトランプは、彼らの想像の斜め上を行ってしまった。現実を、彼の思い描く幻想に捻じ曲げ、そちらこそが「本当の現実」だと信じて疑わなくなっていた。誰もが、それはあくまでも政治的ポーズから「あえて」行っている演技だと思っていた。だが、実際には違った。今回の事件の顛末を見れば、彼は本気でその幻想を信じ切っている。ファンタジー(幻想)がリアル(現実)を凌駕し書き換えてしまった。

トランプこそがアメリカ最大の脅威!?

ここで時間を一旦、事件当日の1月6日に戻そう。

途中、トランプ支持者による議事堂襲撃で中断された上下両院合同会議だったが、6日午後6時過ぎに、全ての暴徒を議事堂から排除したことが確認されたのを受けて、上院では午後8時半、下院では午後9時に、それぞれ再開された。おおよそ6時間の中断を経ての再開だった。

合同会議というのに再開時間が上院と下院でバラバラだったのは、午後2時半ごろ、暴徒の議事堂への侵入によって会議が中断されたときは、ちょうど上院、下院に分かれて、共和党議員から疑義が唱えられたアリゾナ州の選挙人投票結果について、議論を始めたところだったからだ。そのため、再開はこのアリゾナについての議論から始まった。

その後の合同会議の進行だが、アリゾナ州の結果に対する疑義は否決され、再び、淡々と各州の選挙人投票結果の承認が続いた。さすがに議事堂襲撃を受けた後では、選挙結果を覆そうとする行動がもたらす社会的余波を無視することができないという空気が漂っていたからか、事前に疑義を唱えることを公表していた議員の中からも、たとえばケリー・レフラー上院議員──ジョージア州選出の女性議員だが、前日の5日に行われたランオフ(決選投票)で敗退した──のように疑義を取り下げる議員も出てきた。

議事堂襲撃後、合同会議に戻るケリー・レフラー。BLOOMBERG/GETTY IMAGES

このように襲撃事件後の興奮と虚脱の入り混じった会場で、アリゾナ州の後はスムーズに承認が進んだ。途中、トランプが最後まで選挙結果の転覆に拘泥した5つの接戦州(アリゾナ、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルヴァニア、ジョージア)の中でも最大の選挙人数(=20人)を擁するペンシルヴァニア州に対して、疑義が唱えられ、上院、下院でそれぞれ議論がなされることがあったものの、それも結局は否決された。そうして、日にちが変わった1月7日の早朝4時近くになって、合同会議は、ジョー・バイデンの次期大統領選出と、カマラ・ハリスの次期副大統領選出を承認した。承認結果を読み上げたのはこの会議の議長を務めたペンス副大統領だった。疲労困憊の議員たちは、ようやく安堵することができた。

こうしてバイデン政権の誕生が確定したのだが、当然、事件翌日の7日から、連邦議会は、今回の議事堂襲撃を扇動したトランプの責任を追及する姿勢をあらわにした。特に民主党議員は怒りや憤りを公にすることに躊躇がなかった。結果、残り2週間あまりとはいえ、トランプを大統領の職務から引きずり下ろすことを目指すことになった。なによりもトランプこそがアメリカという国にとってもはや最大の脅威であるという認識からだ。

だが、それも当然といえば当然のことで、なぜなら、連邦議会、大統領府、最高裁という三権分立からなる連邦政府の一部門である大統領府を任された大統領自身が、連邦議会の審議を妨害するために暴徒を組織し、実際に議事堂施設を荒らしまわらせた──それが、実際に議事堂で襲撃の間避難して過ごした議員たちの偽らざる実感だったからだ。

すでに暴徒の襲撃から避難するために合同会議が中断されている間に、首謀者とまでいえるかどうかは不確かだが、しかし扇動者であったことは間違いないトランプ大統領の責任について──なにしろ、1月6日正午に、数時間後には暴徒となるMAGAハットをかぶったトランプ支持者たちの前で、選挙結果を取り戻せ、強くあたれ、と発破をかけている姿が映像で残っているのだから──大統領職を剥奪するために、憲法修正第25条の発動か、もしくは、2回目となる弾劾裁判への訴えか、どちらかを実行するしかないと、すでに政治家や報道機関の間で囁かれ始めていたからだ。

結果、民主党は、ペロシ下院議長の主導で、まずは25条の発動をペンス副大統領に求め、それがダメなら弾劾裁判に訴える策に打って出た。

危機感を隠せない共和党

「ペンスを吊るせ!」と言われたため、もしかしたら25条を発動させるかも、と思われたペンス副大統領だったが、結局、1月12日、25条には訴えないというレターをペロシ下院議長に送っている。もしかしたら殺されていたかもしれないような指示を出した大統領と最後まで添い遂げることをペンスは選んだことになる。

このペンスのレターに対して、下院民主党は、まずは25条の要請をペンスに求める決議を決定した。その後、ペンスの拒絶を正式に受けて、ならばやむなしと、2度目の弾劾訴追に乗り出した。異例のスピード審議によって、下院の弾劾訴追は、1月13日、賛成232票、反対197票で可決された。罪状は“Incitement of insurrection(暴動の扇動)”。

共和党からは以下の10名の議員が賛成に回った。

リズ・チェイニー(ワイオミング)、ジェイミー・ヘレーラ・バトラー(ワシントン)、ジョン・カートコ(ニューヨーク)、アダム・キンジンガー(イリノイ)、フレッド・アプトン(ミシガン)、ダン・ニューハウス(ワシントン)、ピーター・メイジャー(ミシガン)、アンソニー・ゴンザレス(オハイオ)、デヴィッド・ヴァラダオ(カリフォルニア)、トム・ライス(サウスカロライナ)。

議員歴4年ながら共和党内で地位が向上しているリズ・チェイニー(左)。CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

中でも最も目立ったのが、共和党下院ナンバースリーの実力者のリズ・チェイニー。名前からわかるとおり、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニーの長女(ディック・チェイニーについては映画『バイス』のレビューを参照のこと)。議員歴はまだ4年と短いが、父の威光もあって今では党内3位の実力者と目されており、それはつまり、共和党が次に下院で多数派を握った暁には、ナンバーワンの地位である下院議長の候補のひとりであるということだ。

ブッシュ家は以前から反トランプの共和党支持者の拠り所として機能しており、実際、昨年の大統領選でもバイデンの側についていた。副大統領のディック・チェイニーも、6日の上下両院合同会議に先立って、噂されるトランプの軍事クーデタを懸念した元国防総省長官10名による声明──ワシントン・ポストのOp-Ed欄に掲載された──にも加わっていた。軍人は「法に反し、倫理に反し、憲法に反する」ような上官の命令に従う必要はない、ということを再確認した内容で、万が一、トランプが選挙結果を覆すように軍に命令したとしても、それに応える必要はないと諭していた。仮に暴動が起こったとして、現場の対応が遅れたたために副次的な惨事が連鎖的に起こり手がつけられなくなるような事態を回避できると考えてのものだった。もっとも、暴動は、軍ではなくトランプ信者の民間人が起こしてしまったのだが。リズ・チェイニーがトランプの弾劾訴追に賛同することを決めたのも、父ディックとの電話のやり取りで「俺なら弾劾する側に加わる」と伝えられたからなのだという。

ともあれ、弾劾訴追が下院で通過した以上、次は上院での弾劾裁判であり、注目は、多数派の共和党のまとめ役であるミッチ・マコーネルが、いつ弾劾裁判を実施するかに移った。バイデンが次期大統領になるときまでは弾劾裁判は始めないと言われる一方で、6日の議事堂襲撃事件にはマコーネルも相当腹を立てていると伝えられており、彼自身も今回は弾劾に賛成するのではないかと目されている。この場合、マコーネルにとっての最優先事項は、後顧の憂いのなきよう、トランプと共和党の間の関わりをここで断つことにある。

というのも、議事堂襲撃事件以後、これまで共和党の大口政治献金者であった企業の多くが、トランプに同調して大統領選の結果の転覆に賛同する議員には今後一切献金はしないと公言してきたからだ。過去、共和党は、企業からの献金が減少する傾向にあり、そのため新たな献金先としてオンラインの小口献金者に頼るようになった。そこではトランプの人気が大きな集金力につながっていた。

マコーネルとしては難しい選択を迫られていることになるが、しかし、この献金先の変化は、共和党内で新旧の議員を分かつ理由のひとつにもなってきている。今回、合同会議の席でトランプの求めに率先して対応し、選挙結果の転覆に動いたジョシュ・ホーリーやテッド・クルーズといった新興の上院議員たちは、オンライン献金を無視できないがゆえにトランプとの縁を切れない人たちだった。だが、オンライン献金に必要な動員力は、容易にポピュリズム台頭の温床にもなる。その結果が、今回のような極右の襲撃を誘発するようなら、共和党としては頭の痛いところだ。端的に、分裂の危機である。

共和党は、80年代以降、保守主義の政党として認知されてきたが、今回の議事堂襲撃事件の対処を誤ると、対外的には保守主義を捨て、ただの極右ポピュリズム政党になりさがってしまったように見られかねない。

なぜなら、もともと保守主義は、レガシー(伝統)やヘリテッジ(遺産)を尊ぶ価値観であり、その点から見ると、200年続いた連邦議会議事堂の破壊行為に対して、怒りや憤りを率直に表明しないことはありえないからだ。それはまた、共和党の掲げるパトリオット(愛国者)の党の信義にももとることになる。

このように共和党は、トランプの登場によって、従来どおりの保守主義の政党であり続けるのか、それとも白人優位主義や陰謀論に親和的なトランプ・カルトの極右ポピュリズム政党に転じてしまうのか、崖っぷちに立たされてしまった。企業献金の話は、いまはまだギリギリ保守政党のふりを保っている共和党の古参政治家たちに対して、この先、どうするつもりなのか、選択を迫っているわけだ。

ここで悩ましいのは、アメリカの場合、150年近く続く民主党vs共和党の二大政党の歴史から、社会体制として第3党が成長しにくい政治土壌であることだ。つまり、万が一、共和党が2つに割れた場合、どちらか一つしか残らない可能性が高い。というか、生き残った側が引き続き共和党の暖簾を守っていくことになる。となると、ここで、たとえば向こう数年の間、企業献金が劇的に減少するようなら、共和党がポピュリズム政党に堕ちることはほとんど確定してしまう。

つまり、共和党は、今回の議事堂襲撃事件によって、党が割れる危機をも迎えてしまったことになる。その意味で、今回の弾劾裁判は、共和党内部の権力闘争の場にもなってしまったということだ。実際、テッド・クルーズとジョシュ・ホーリーの2人に対する風あたりは日に日に厳しくなっている。

ジョシュ・ホーリーの今後の政治生命はいかに? TOM WILLIAMS/GETTY IMAGES

たとえば、彼らから政治家としての信頼性を取り除く動きして、それぞれ母校のロースクール──クルーズはハーバード、ホーリーはイェール──の卒業生たち数千名から、選挙人投票の結果を覆そうとする行為は法に反する行為であり、彼ら2人から弁護士の資格を剥奪すべきという嘆願が、法曹界に提出されている。あるいは、ホーリーの場合、予定された新著の刊行が出版社側の判断で破棄されることもあった。さらには、この2人については、議事堂襲撃を教唆したという理由で、空港で民間飛行機の搭乗が見送られる可能性すら噂されている。これはテロリスト集団に関係する人物は危険人物として飛行機の搭乗を拒否される仕組みで、実際、今回の議事堂襲撃に参加した人物が、帰りの飛行機の搭乗を拒否されたため、空港で喚き散らすという事態も生じている。

ともあれ、このような状況にあるため、2度目のトランプの弾劾裁判に対してどのような態度で臨むかは、今後のアメリカ政治、ひいてはアメリカ社会の行く末を大きく左右する。すでにトランプの去就を占うだけの案件ではなくなってしまった。

「アカバン」によって世界は静寂を取り戻した

ところで、アメリカの企業が、政治家に対して強い姿勢を取るようになったには、トランプの手からTwitterが取り上げられたことが地味に効いている。今までと違って、反トランプの姿勢を示した企業人や政治家たちを罵倒するツイートを即座に発することができなくなったからだ。トランプは今回の議事堂襲撃事件の結果、TwitterやFacebookからアカバン(アカウントの即時停止)を食らってしまった。

トランプ自身は、今までと変わらずいきり立っているものの、しかし、その発言は、もはや「人づて」によってしか伝えられない。そして、それだけで随分とトーンダウンしたように聞こえる。裏返せば、Twitterがどれだけトランプ流統治の生命線を握っていたか、ということを示している。

トランプは、TwitterやFacebookなど彼のソーシャルメディアアカウントが事件後、一斉に凍結されたため、外部に彼の意向を伝えることが困難になった。その途端、彼に歯向かうような言動をとっても、Twitterで罵倒され、それがフォロワーによって拡散されることがなくなり、そのような「言葉責め」の恐怖から、政治家のみならず一般の人々まで開放された。トランプのアカバンが示すのは、彼のツイートがいかに人びとの言動、とりわけ政治家や政府関係者の言動に抑圧的に働いていたかという事実である。なにより、日々の報道で、彼のツイートが逐一取り上げられなくなったことの開放感といったらない。大げさに言えば、世界は静寂を取り戻した。この経験は、むしろ、今後のソーシャルメディア上のヘイトスピーチの扱い方の上で参考にされるのではないだろうか(もっとも、ドイツのメルケル首相が、Twitterによるトランプのアカウント停止に対して物言いを付けていることも付け加えておく)。

実際、TwitterとFacebookだけでなく、ソーシャルメディア各社は、トランプの発言が今回の議事堂襲撃事件を誘発したとみなし、再発防止のために、トランプならびにトランプ関係者のアカウントを停止したている。

1月9日時点でトランプをアカバンしたプラットフォームはFacebook、Twitter、Google、Spotify、Snapchat、Instagram、Shopify、reddit、twitch、TikTok、Pinterestの各社。これに13日、YouTubeも加わった。

こうした動きの結果、やむなくトランプが、以前からテッド・クルーズも使っていた極右グループの集うソーシャルメディアのParlerに移ろうとすると、今度はAppleとGoogleが先回りして、Apple StoreとGoogle Play StoreからParlerを追い出した。さらにはParlerがホスティングしているAWSの利用がAmazonによって停止された。もちろん、Parlerがホスティング先を別に移せば再稼働可能かもしれないが、しかし、それは即座にできるものでもないだろう。

そもそも、Twitterがトランプをアカバンしたのは、彼がバイデンの就任式には参加しないとツイートしたからで、それは、議事堂襲撃事件の後では、俺は行かないが、お前ら何をすればいいかわかってるよな?という(犬笛)メッセージとして解釈されかねないとみなされたからだ。

さすがに、同じ議事堂前で行うバイデンの就任式まで暴徒に襲われたのでは、もはやアメリカという国家の威信にかかわる。あのツイートをつぶやいた瞬間、トランプはアメリカにとっての脅威とみなされてしまったということだ。

実際、そこからの反応は早かった。

すでに伝えたとおり、アメリカを代表する企業が、選挙人投票を覆すことに加わったトランプ派の共和党議員への政治献金を停止することを公表。トランプから大統領自由勲章の授与を公表されたNFLニューイングランド・ペイトリオッツ監督のビル・ベリチックは、受賞を辞退。PGA(全米プロゴルフ協会)は、2022年の全米プロゴルフ選手権の会場をトランプのゴルフ場から変更すると決定。さらには、ドイツ銀行がトランプグループとの今後の取引を見送ると公表。
潮が引くように、一気に、トランプと距離を取る者たちが出てきた。まさに潮目が変わったのだ。

ジョージア州が「青く」なった意味

ともあれ、ソーシャルメディアの話に戻れば、シリコンバレーは、一斉に民主党への追随に傾いた。それもこれもジョージアの勝利が大きい。

議事堂襲撃事件によってすっかり霞んでしまったが、前日の5日に行われたジョージア州上院議員選のランオフ(決選投票)では、民主党が2議席とも勝利を勝ち取った。南軍所属州から初めて黒人の上院議員が選出されたこと、レッドステイトだったジョージア州がすっかり青くなったこと。黒人有権者の投票率の大幅な増加など、実は、こちらもアメリカ政治史に残る出来事になった。

だが何よりも、このジョージアでの大金星によって上院は、民主党と共和党がともに50議席ずつを占めることになり、上院の議長を務める副大統領のカマラ・ハリスが属する民主党が「多数派」に返り咲いた。「マジョリティ・リーダー」を名乗るのも、ミッチ・マコーネルからチャック・シューマーに代わることになる。

これで、ギリギリではあるが、上下院とも民主党が多数派を確保したことになり、バイデン政権の最初の2年間は、バイデンの掲げるアジェンダが議会でも通過しやすい環境が確保された。ジョージアの完勝は、それだけの政治的価値をもっていた。シリコンバレーがトランプのアカバンに一斉に動いたのも、民主党に風が吹いていることを読んだ上でのものだった。

ところで、ここまで見てきたように、2021年1月6日にワシントンDCで起きた事件は、今後のアメリカを大いに左右するものとなった。弾劾裁判の行く末、暴走参加者の逮捕・訴追、共和党の内部抗争、ソーシャルメディアの未来、等々、積み残しになった問題は多い。

もうこう書いて筆を置くことにも飽きてきたのだが、バイデンが大統領に就任するまで、まだ何が起こるか、わからない。ただ、今回の一件で、アメリカがかなりヤバい状況にあることが明らかになったことだけは、しっかり記憶の片隅にとどめておくべきだろう。

1月13日、下院で可決されたトランプの弾劾決議案を撮影するカメラマンたち。STEFANI REYNOLDS/GETTY IMAGES