ファッションメディアのフーワットウェア(Who What Wear)は3月10日、最新のポッドキャスト番組『フーワットウェア・ウィズ・ヒラリー・カー(Who What Wear with Hillary Kerr)』を開始した。デザイナー、スタイリスト、エグゼクティブ、その他専門家の目を通して見える、ビューティ、およびファッション業界のいまを探求する内容だ。フーワットウェアの共同設立者であり最高コンテンツ責任者(CTO)のカー氏は、Webサイト上の記事とポッドキャストのコンテンツをリンクさせて活用したいと、サービスローンチ前に述べていた。

なお、『フーワットウェア・ウィズ・ヒラリー・カー』は、ウォルマート(Walmart)が番組スポンサーを務めており、同社が番組内で広告を流すという座組みで進められている。ウォルマートはこの番組を活用し、新しいプライベートブランド、フリー・アッセンブリー(Free Assembly)のプロモーションを行っている。

このところウォルマートは、ポッドキャストへの投資を増やしている。また同社は、男性オーディエンス向けにSpotify(スポティファイ)との提携も試験的に進めている。2020年には、小売業界のオピニオンリーダーを特集したポッドキャスト、「アウトサイド・ボックス(Outside the Box)」を開始しており、今回のフーワットウェアとの取り組みもその一環だ。なお同社にとって、ファッションに特化した音声コンテンツへの投資は、今回がはじめて。ポッドキャストがこの分野の成長を牽引できることを、大いに期待しているという。

「親密な空間を生み出す」

ウォルマートは、製品の発売を促進するためにポッドキャストを活用している。動画キャンペーンと比較すると、ポッドキャストは制作費が安く、ユニークなエンゲージメントを獲得できるし、コロナ禍においても、ソーシャルディスタンスを保ちながら遠隔地で簡単に制作できる。ある試算によると、ポッドキャストは年間1万ドル(約110万円)以下で制作できるが、キャンペーン実施のための写真撮影1回あたりの費用は、最大で3万5000ドル(約384万)かかるという。

「潜在顧客にリーチし、我々の新しいブランド、フリー・アッセンブリーを紹介するための戦術としてポッドキャストを取り入れた」と、ウォルマートの戦略パートナーシップとビジネス開発部門ディレクターであるファラ・マルーフ氏は述べる。「フーワットウェアは、当社にとって(アフィリエイト・コマース部門で)実績のある、最高のパフォーマンスを誇るパートナーだ。ウォルマート・ファッション(Walmart Fashion)の新規顧客獲得の推進に貢献してくれると期待している」。

またポッドキャストは、ビジネスの売上に明確な影響を与えることができるという。実際、前出のカー氏によると、フーワットウェアが牽引するファッションブランドへのアフィリエイト売上は、ポッドキャストを展開することによりパンデミックのあいだ80%増加した。フーワットウェアの別のポッドキャスト番組、『セカンドライフ(Second Life)』は、キャリアにおいて大きな転換を経験した女性エグゼクティブに焦点を当てたもので、3年間で1100万回以上ダウンロードされている。

「ポッドキャストを用いれば、『親密な空間』を生み出すことができる。オーディエンスは、そこで語られるストーリーと強くつながれるのだ」とカー氏は続ける。「数え切れないほど多くの人たちから、反響が寄せられている。たとえば、私がオーロラ・ジェームズ氏(ファッションブランド、ブラザー・ベリーズ[Brother Vellies]のデザイナー)を招いた回では、リスナーから『番組を聞いて、ベリーズ氏のブランドのサブスクリプション・サービスに登録した』という声が聞かれた。エヴァ・チェン氏との回でも、『彼女の著書を買いに行った』といったオーディエンスがいたようだ。人はストーリーと繋がりを持てば、行動を起こす。また、エバンジェリストにもなってくれる可能性もある」。

広告色は控え目に

ポッドキャストの活用例はほかにもある。

高級ブランドのモンクレール(Moncler)も、モンクレール・ジーニアス(Moncler Genius)というポッドキャストを開始している。ロンドンの美術館、サーペンタイン・ギャラリーズ(Serpentine Galleries)のディレクターである、ハンズ・ウルリッヒ・オブリスト氏が司会を務めた第1回では、デザイナーのジョナサン・アンダーソン氏が、モンクレールとのコラボレーションとデザインに与えた影響について話した。同社担当者によると、モンクレールは新しいコレクションのための複数のキャンペーンを開始しているが、ポッドキャストは中心的な役割を担っているのだという。なお、このポッドキャスト番組は、ブランドのソーシャルチャネルを通じてプロモーションされている。

担当者によると、このポッドキャスト番組はモンクレール自身が制作に携わっており、彼らのブランドを前面に押し出し、メッセージを打ち出す機会として活用しているという。これは、高級ブランドに共通する戦術だ。たとえば『グッチ・ポッドキャスト(Gucci Podcast)』や『ディオール・トークス(Dior Talks)』においても、同様の手法が見られる。一方、小売企業が自ら制作する番組などは、オーディエンスの関心を第一にコンテンツを作りこみ、製品とブランドを番組のバックグラウンドに置くやり方を取る。たとえば、現在は停止している『バーニーズ・ポッドキャスト(Barneys Podcast)』は、ダイエット・プラダ(Diet Prada)に携わった業界人の紹介やインタビューを配信したが、バーニーズ(Barneys)のコレクションや製品ローンチに関しては特に触れていなかった。ちなみに、ネッタポルテ(Net-a-Porter)の『ピーシス・オブ・ミー(Pieces of Me)』では、ファッション業界で著名な女性を紹介する番組を展開している。

コンサルティング企業のグローバル・データ(GlobalData)で、小売部門担当マネージングディレクターを務めるニール・ソンダーズ氏によると、製品に焦点を当てすぎてしまうと、ただの長くなった広告と化してしまうリスクがあるため、気を付ける必要があるという。ほとんどのポッドキャスト番組はそのダウンロード数を公開していないが、ネッタポルテのような製品への焦点が比較的少ない番組の方が、エンゲージメントが高いことがわかっている。たとえば、2018年から続いているグッチ・ポッドキャストは、Appleポッドキャスト(Apple Podcasts)上の評価数が77件。ディオール・トークスは21件。だが、2018年から2019年まで放送されたバーニーズ・ポッドキャストは、250件以上となっている。

「優れたポッドキャストは、製品を販売するための単なる広告の枠に収まらない。ブランドのストーリーを伝え、消費者とのより深いつながりと親近感を醸成することができる」と、ソンダース氏は述べた。「若い買い物客には、特に当てはまる。もし露骨なマーケティングやPRトリックを用いれば、若いオーディエンスはそれを見抜くだろう。しかし、ブランドのDNAや歴史について知ることができたり、ゲストを紹介したりすれば共鳴する可能性が高くなる」。

音声コンテンツの可能性

ポッドキャストの視聴時間はパンデミックの期間中、大幅に増加した。オーディエンスのあいだでは、自宅で過ごす時間が増えたことで、番組を中断せず継続して聴取するスタイルも広まりつつある。Spotifyによると、ポッドキャストコンテンツの消費量は、2020年のパンデミックの最初の6カ月で倍増したという。

スタティスタ(Statista)によると、2021年は消費者のほぼすべての年齢層が、2020年よりもポッドキャストを頻繁に聴いているという。特に増加したのはZ世代とミレニアル世代で、以前よりも多くポッドキャストを聞いているという人の割合は、それぞれ31%と26%となっている。バルチャー(Vulture)のニコラス・クオー氏によると、ポッドキャストの成長は、クラブハウス(Clubhouse)の台頭に飲み込まれる可能性もあるが、同アプリの人気が音声コンテンツへの親近感を高め、結果的にポッドキャストの成長をも促進する可能性があるという。

「インスタグラムライブ(Instagram Live)や、単なるソーシャルメディアへの投稿とは異なり、ポッドキャストは自らを中心に見せない方が良い」と、スタジアムレッド・グループ(Stadiumred Group)の創設者兼CEOのクロード・ズダナウ氏は語る。「むしろ、ポッドキャストはオピニオンリーダーを中心に構築されることが多い。ファッションブランドや小売企業は、オーディエンスと繋がりブランドの認知を高めてくれるような、オピニオンリーダーコンテンツの作成方法を考える必要がある。ポッドキャスト番組は、ブランドそのものだけでなく、人々の関心を引くトピックに関するものでなければならない」。

[原文:How fashion brands and retailers are using podcasts to promote new product launches]DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)