2021年3月12日、楽天グループが日本郵政グループや中国ネット大手、テンセント(騰訊控股)などによる第三者割当増資を介し、総額2,423億円を調達すると発表した。これを受け、15日には楽天株が約5年以上ぶりの高値水準に達するなど、市場はおおむね、ポジティブな反応を見せた。しかし、この資本業務提携が日本にとってリスクになりかねない要素も指摘されるなど、評価は分かれている。

■異例の出資関係 日本郵政の「楽天救済策」か?

疑問視されているのは、増資額に占める日本郵政の比率が6割強(約1500億円)と極めて高い点だ。全体的な出資比率は8.32%におよぶ。2007年に民営化されたとはいえ、日本郵政は3月25日現在も、日本政府および地方公共団体が株式の約6割を保有する国有企業である。言い換えると、間接的には国民の税金を使い、特定の企業に巨額の出資を行うということだ。

楽天の発表によると、両社は物流、モバイル、デジタル・トランスフォーメーション(DX)等、多様な領域での連携強化を目指している。日本郵政の主な狙いは、国内EC流通総額約4.兆5,000億円規模の楽天のネットワークを駆使した、物流戦略の強化拡大にあるはずだ。

しかし、物流分野の提携に関してはすでに2020年12月下旬に合意に至っている。その時点では、モバイル分野や出資に関しては一切発表されていなかった。そうなると、「モバイルや出資は後付け」という印象が拭えず、「モバイル市場で苦戦する楽天救済策ではないか」という疑惑が浮上する。

楽天の2020年12月期の決算は、売上収益が1兆4,555億円と前年を15.2%上回ったものの、営業赤字は938億4,900万円と過去最大を記録した。当期利益は前年の330億 6,800万円の赤字からさらに悪化し、1,158億3,800万円の赤字となった。好調だったEC事業や金融事業とは対照的に、エリア拡大に向けた基地局設置など、携帯事業への投資が資金繰りを圧迫している。

投資活動によるキャッシュ・フローは、前年の2,862億 9,000万円の赤字から3,033億4,700万円の赤字へと悪化した。これに、大手キャリア対格安携帯会社の値下げ合戦が加わっている。

■噛み合わない「戦略提携」

前述した通り、日本郵政は物流での戦略提携を打ち出しているが、実際には増資のほとんどが楽天のモバイル事業に費やされる。楽天の資料によると、調達資金のうち1,840億円は4G(第4世代移動通信システム)の基地局設備、310億円は5G(第5世代移動通信システム)の基地局設備、250億円は共通設備(データセンターにおけるサーバー等)に投じられる予定だ。その総額は2,400億円に上る。発行諸費用を差し引くと、増資残高はわずか18億円だ。

この点についてはウォールストリートジャーナル紙も、「各提携先は楽天の対Amazon戦略を支援する上でユニークな要素を提供する」が、モバイル事業が足かせとなり、「決定的な切り札にはならない」と予想している。

そもそも、新規発行株を第三者(企業・個人)に引き受けてもらう第三者割当増資は、2社以上の企業が相互に相手の株を所有する株の持ち合いが行われることが多い。しかし、今回のケースでは、あくまで、日本郵政側が楽天に出資する。やはり、なにか腑に落ちないものを感じる。

■テンセント参入で懸念される「日本のリスク」

もう一つの引受先であるテンセントについても、最悪のシナリオでは、個人情報の流出や日米関係に影響をおよぼす可能性が懸念される。厳密には、テンセントは持ち株の100%を保有する投資子会社、イメージ・フレーム・インベストメント(Image Frame Investment)を介して、約650億円を楽天に出資する。

楽天には2010年にバイドゥ(百度)と提携し、中国市場に進出を果たしたものの、わずか2年で閉鎖に追い込まれた苦い思い出がある。世界最大のメッセージアプリ「WeChat(微信)」を運営するテンセントとの提携は、楽天にとって中国市場敗者復活戦のチケットとなるだろう。

ここで引っかかるのは、テンセントが中国政府だけではなく、米国政府の監視下にある企業という点だ。近年、中国政府は独占禁止などでインターネットのプラットフォーム企業の取締を強化した。2021年2月には「テンセントの幹部が個人的な不正の疑いで、中国当局に拘束されている」とロイターが報じるなど、不穏な空気が立ち込めている。

米国にとっても「要注意企業」だ。2020年、トランプ前政権は「米国民の個人情報が中国政府に流出する懸念」を理由に、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」や「WeChat」の利用を禁ずる大統領令を発令した。連邦控訴裁判所により執行差し止めとなったものの、個人情報流出疑惑が晴れたわけではない。

さらに2021年1月、「中国人民解放軍とつながりがある」と判断した中国企業への証券投資を禁じる大統領令が発行された。ブルームバーグは関係者の証言から、テンセントとアリババグループ(阿里巴巴集団)は、このブラックリストに追加されるところを寸前で免れたと報じたが、対象から完全に除外されたとは考え難い。

また、米中関係が悪化の一路を辿っている点も気にかかる。バイデン政権発足後も改善が見られるどころか、米国側は同盟国の協力関係を深め、対中姿勢を強化する意向を示している。米国政府にとって、楽天のような日本大手企業とテンセントのような中国大手企業との資本提携は、手放しで歓迎できる動きではないはずだ。

トランプ前政権が懸念していた、経済安全保障リスクを指摘する声も少なくない。「WeChat」内での会話や行動は中国政府に監視されており、反体制派の封じ込めなどに利用されているという。これが本当であれば、楽天や日本郵政が有する膨大な個人情報がテンセント経由で中国側に流出し、リスクに晒される可能性は否めない。

日本では2019年に外為法(外国為替及び外国貿易法)の一部が改正され、国内の56%の企業が海外投資家による出資規制対象に指定されている。しかし、民間企業であるテンセントの出資は10%未満であるため、届け出義務の対象外となる。

■シナジー効果に期待

今回の提携関係で、日本郵政の物流の効率化や楽天市場の利便性向上、モバイル通信の品質向上などシナジー効果が期待される反面、一抹の不安が残るのも事実である。業績悪化が続いている楽天にとって、「単なる時間稼ぎ」という厳しい意見もある。

いずれにせよ、単なるビジネス提携関係の枠組みを超え、「深刻な事態に発展しかねない要素が、複雑に絡み合っている」という違和感を覚える。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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