パンデミックが始まってから1年が経過し、働く人々はインスタントメッセージの「通知」とビデオ会議の海で溺れている。

SlackやTeams、Zoomといったコミュニケーションツールがビジネスの救世主となった一方で、このようなツールのせいで、本来おこなうべき仕事に従事する時間も減ってしまった。常に集中できてないと感じる社員は多く、また燃え尽きを感じる者も多い。

カリフォルニア大学と独フンボルト大学の研究では、仕事に割り込みが入るたびに最大で23分間が無駄になっていることがわかった。

通知が遠のかせる平穏と静寂

インスタントメッセージングの利用からすでに距離を置いている企業もある。クリエイティブエージェンシーであるフリー・ザ・バード(Free The Birds)のパートナーのポール・ドームネット氏は、インスタントメッセージツールがクリエイティブな企業文化にそぐわないと話す。

ドームネット氏は、「我々はインスタントメッセージツールを利用しようとしたが、実際にはスピードが失われ、誤解を助長することがわかった。結局のところ、さまざまなプラットフォームが急激に増えたことによって単に混乱を招いてしまった。だから我々は電話とビデオ会議に切り替えることにしたが、それで我々とっては十分だった」と語る。

オフィスが再開されるにつれて、彼の考えに従う企業が増えるかもしれない。一日中ずっと通知に煩わされるため、ナレッジワーカーは(通知が大量に届く)本来の勤務時間の前後に働くという思考に陥ってしまう。そうすれば平穏と静寂が得られ、実際に仕事を片づけることができるからだ。

ロンドンを拠点とするバーチャルワークスペースのスタートアップ、カタログ(Qatalog)の共同設立者であるタリク・ラウフ氏は、「さまざまなプロジェクトやアプリを切り替えることで、生産性が失われてしまう。社員はメッセージに即座に返信することやすべてのビデオ会議でビデオをオンにしておく必要性を負担に感じることに加え、勤務時間も長くなっている。圧力鍋は爆発しそうだ」と話している。

ツールの誤用が大きな問題か

サンフランシスコを拠点とするSlackの製品担当バイスプレジデントであるノア・ワイス氏は、当然ながらSlackがパンデミック期間中に多くの企業を支えたことを誇りに思っている。Slackは今後数カ月のあいだに、メッセージやチャンネルで、ビデオ、オーディオ、スクリーンキャプチャを社員間で共有できるツールの提供を計画している。

当然ながらワイス氏は企業が抱える懸念を理解しており、社員たちはSlackの効果的な使い方を学び、その価値を最大限得られるようにするべきだと話す。これはつまり、重要な仕事に取り掛かっている際にはおやすみモード(Do Not Disturb)を使う、通知の頻度を変更する、自分が都合の悪いときにはカスタマイズされたステータスを適用してそれを同僚に知らせる、といった使い方を意味している。「分散型の柔軟な業務を妨げる最大の問題は、果てしなく続くビデオ会議、厳格なスケジュール、そして同僚とつながる機会や仕事に集中する時間の減少だ。しかしSlackは、すでに多くの企業においてその仮想的な本社となっていて、それはオフィスが再開されても続くだろうと我々は見ている。Slackは社員が交流し、組織の文化が息づく場所だ」とワイス氏は語っている。

スコットランドを拠点とするデジタルエージェンシーのレッド・レボリューション(Red Revolution)のマネージングディレクターであるデビッド・ロビンソン氏は、このようなツールの欠点は、その誤用によって生じるという点に同意する。同氏は「Slackはメールやプロジェクト管理ツールの代用品ではなく、それらを強化するもので、長くとりとめのないメールを送信したり、実行すべきタスクを設定したりする場所ではない。ひっきりなしの通知のせいで、崖から落ちるように生産性は低下する」と話している。

トロントを拠点とするマーケティングテクノロジー企業であるハイブスタック(Hivestack)のCMOニッキ・ホーク氏は、自部門の社員がSlackにとても詳しいユーザーになったものの、精神面での健全性に課題があることに気づいていると話す。Zoomがチームに与える影響については、さらに悪いと感じている。

「Zoom疲れは現実に存在し、マーケター、プロダクト担当、エンジニアとしては、ホワイトボードがあってスナックが置かれ、マーカーの匂いが感じられる会議室でのミーティングを恋しいと感じている。私たちはカレンダーに『仕事時間』を設けて、一日中繰り返されるビデオ会議をブロックすることを始めた」とホーク氏は話す。

堅固とは言い切れないセキュリティ

ほかにも、企業がまだ考慮していないコミュニケーションツールにかかわる潜在的な問題がある。その中でももっとも深刻なのは、社員がセキュリティの確保されていないWi-Fiネットワークやデバイスを使ってリモートで仕事をすることで生じるセキュリティの侵害やデータの漏洩である。

メッセージツールであるワイヤ(Wire)は、エンドツーエンド暗号化によってセキュリティが担保されている。そのため、主に大企業や金融サービス企業、政府組織で利用されている。資産運用会社のブラックロック(Blacklock)やソフトバンクロボティクス、大手会計事務所のEY、ユニセフなどがワイヤの顧客である。

ワイヤのCEOであるモーテン・ブロガー氏は、物理的なオフィスでは機密情報はファイアウォールと安全なインターネット接続によって保護されているが、企業が何らかのツールを通じて仮想的なコラボレーションをおこなう場合には、企業データの保護に投資する必要があると話す。

ブロガー氏は、「パンデミックの発生以前、自ら選択したメッセージングやコミュニケーションツールのセキュリティ機能が、本当にリモートワークに適しているかどうかを考慮した企業はほとんどなかった。結果的に、多くの企業でセキュリティが十分堅牢だと言い切れないツールを利用して機密情報が共有されていた」と指摘する。

[原文:‘The pressure cooker is primed to explode’: How instant messaging tools are contributing to burnout]STEVE HEMSLEY(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)