「時間」――それは人生において最も重要な資産ではないでしょうか。自分が望む働き方や人生を実現するためには、限られた時間(1日24時間=1440分)を何に分配、投資していくのか、戦略的な視点が欠かせません。この「1440分の投資戦略 やめるに勝る時短なし」特集では、単なる時短術にとどまらない「時間投資ストラテジー」を紹介していきます。

第1回は、星野リゾート代表の星野佳路さんにお話を伺いました。星野さんは時間の投資方針について、「まずはやめること」を意識されているのだとか。「『死』から逆算して時間を割り振る。星野佳路の最優先事項とは」に続いての後編です。

星野佳路(ほしの・よしはる)

1960年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1914年に創業した星野温泉旅館の4代目で、91年星野リゾート前身の星野温泉社長(現代表)に就任。著書に『星野佳路と考えるファミリービジネスマネジメント』(日経BP)など。

――星野さんは「時間」という資産をどのように分配、投資されているのでしょうか?

時間は、すべての人が同じペースで消費していきます。会社経営という立場からは、スタッフが自分の貴重な時間を投資してくれているわけですから、そこに応える姿勢を持つことが大事だと感じています。

そして自分自身も、貴重な資産である時間を、うまくマネジメントしていきたいと考えています。心がけているのは、まず「やらないこと」を決めることでしょうか。それが一番時間の節約につながると思っています。

私の場合は、あまり会食をしません。新型コロナウイルスが流行しているからではなく、以前から夜に誘われたとしても、参加することはめったにありませんでした。

プライベートも同じで、友人と食事にいくこともほとんどありません。昔から「星野は付き合いが悪い」と言われています。

一方で、まわりの経営者を見てみると会食のほか、ゴルフに行く人も多いですが、これもしません。「スキーならしますけど、一緒にどうですか?」と伝えることはありますが、誰も乗ってきてくれません。

――一般的な経営者やビジネスパーソンは、人脈作りという意味合いもあって付き合いをされている人が多い印象ですが、「付き合いをしない」ことによるデメリットを感じることはありませんか?

特にないですね。気づいていないデメリットがあるのかもしれませんが、わかりません。仮に少々のデメリットがあったとしても、会食などに行かず、しっかり睡眠時間をとることは、ストレスマネジメントという面でもいい影響があるので、やはり行くつもりはないですね。

「ストレスを感じない生活」も、仕事のパフォーマンスをあげるうえで非常に大切なことだと思っています。

出る会議は厳選し、任せた以上100%は求めない

――仕事をされるうえで、他に「しないこと」は何でしょうか?

私が出る必要のある会議や自分でないとできない仕事だけに、なるべく集中するようにしています。うちのスタッフはみな優秀なので、私がいなくても十分機能するし、そこは任せています。

任せるときに心がけているのは、「100%の成果を求めない」ことでしょうか。仕事のなかには「自分がやれば100%の成果が出るけれども、人に任せると80%になる」ということもありますよね。

でも、任せたからには80%の結果でいいと思っています。そのおかげで、自分が他のこと(スキー)に時間を使えるわけですから。

そして最近は、「自分が出たほうがいいのでは」と思うようなことでも、思いきって任せることも出てきました。これまではほぼ参加してきたプレス発表会なども欠席してみたりして、着々と「任せられること」を増やしています。

任せてみると、意外と問題はないものなんです。先日も大きな施設の開業がありましたが、そのプレス発表に私が出なくても記者の方はたくさん来てくださいましたし、成功に終わりました。やはり、いろいろ試してみることが大事ですね。

ーー「時間」をより効率的に使うために、他に工夫していることはありますか?

出る会議を絞ったうえで、さらに「短くすること」ですね。

会議というと、なんとなく1時間とか2時間という具合に決められていることが多いですが、「この会議は本当に2時間も必要だろうか? 1時間にしてみたらどうか」「この会議は30分で終わるように、アジェンダを事前に決めて時間を管理していこう」と、会議の短縮を試みています。

例えば、企画会議は1カ月のマックス時間を事前に設定しており、その範囲内でやれるように工夫しています。

短くしてみて、うまくいけばそれでいいですし、うまくいかないものがあればまた戻せばいい。まずはやってみて、問題があれば修正、改善するということで進めています。

――プライべートでも「しないこと」は決めているのですか?

テレビはほとんど見ません。スマホでゲームすることもないし、SNSも頻繁に更新することはありません。食事をして、しっかり寝る。そしてスキーをする、という生活です。

家族との時間もあまりないですね。息子は留学しているし、妻は私以上に忙しいので、そもそも家にいません。もちろんそれぞれがタイミングを合わせて会うことはありますが、毎日家族だんらん、みたいなことはありませんね。

今の生活は本当にシンプルで、やることをどんどん減らして、食事と睡眠以外はスキー。これが私の時間投資方針です。

しっかり睡眠をとるのはパフォーマンスに直結しているから

――そのようにいろいろやめていく中でも、睡眠時間だけは「良質な睡眠を7時間以上」など数値目標を掲げてしっかりとられています。これはどういう狙いがあるのでしょうか?

私の仕事は決断とアイデアです。長い時間をかければかけただけパフォーマンスが上がる、という種類のものではありません。

それよりも、瞬間のパフォーマンスを上げていくことで、いい仕事ができると感じます。労働時間の長さよりも、瞬発力が問われているんです。

会議をするとしたら、その瞬間にいろいろな発想力が働くかどうか。それが私に求められていることであり、期待されていること。何か情報共有がされたり、ある状況に陥ったりしたときに、瞬時にどんなことが発想、決断できるかどうかが重要なんです。

そう考えると、「睡眠」は非常に大切です。発想力を最大限に高めていいパフォーマンスを発揮するには、睡眠時間がかなり影響すると考えています。いわば、短距離走のようなイメージでしょうか。

その日の体調、コンディションが仕事のパフォーマンスに大きく影響するので、しっかり眠って、体調を整えてから出社することを心がけています。

ベストな体調を維持するため「1日1食」を続けていた時期も

――瞬間的なパフォーマンスを上げるための体調管理として、睡眠時間以外にも気を付けられていることはありますか? 以前は「1日1食」にされていたということですが。

40代で朝食をやめて、50代になるころには昼食もやめて、1日1食にしている時期がしばらくありました。年齢とともに基礎代謝が落ちますし、ベストなコンディションや体重を維持するためには、食べる量を減らすしかないと考えたからです。

食事は夕食だけにして、量は特に制限せず、好きなものをバランスよく食べるようにしていました。

ところが最近、年齢を重ねてきて、1日1食による弊害も感じるようになりました。胃酸の問題などの副作用を感じるようになり、それが解決しにくくなってきたんです。

総摂取カロリーを落とすことは大切ですが、1日に摂取すべきカロリーを1食だけに集中させるのは、現在の自分にとってはよくないと感じて、今は基本的に2食に分散させるようにして、それぞれの量を減らすようにしています。

星野家はコレステロールが高い体質で、心臓発作で死んでいく人が多いんです。そのため、「寿命は80歳」を意識しながら、コレステロールが高くないもので、量は少なめにして、1日の総摂取カロリーを落とすことを心がけています。

――運動面では「1日1万歩以上歩く」という目標を立てられ、自転車通勤をすることも多いと伺っています。

「歩数」を稼げば、それだけたくさん歩いて運動することにつながりますから、体重コントロールにもつながります。歩数が足りないときは、散歩をして目標を達成するようにしています。

体重が増えると、腰への負担が大きくなります。これは、仕事だけでなく、スキーのパフォーマンスにも大きな影響があります。私くらいの年齢になると、体力だけでなく、腰の柔軟性がどうしても落ちていきます。そこを自分で補っていく努力が必要だと感じています。

人生はトータルで捉えることが重要

――前編で、寿命が80歳として、50歳の時点で残り30年間を前半の15年、後半の15年に分けて考えたというお話がありました。61歳でいらっしゃる今、あと4年ほどで後半の時期に入られるかと思います。どのように感じていらっしゃいますか。

後半戦もこのままスキーを滑れるのではないかな、という勢いで今はやっていますね。ただ、どこかで大きなケガをするとまずいので、そこは十分気をつけています。

ニュージーランドで出会った日本人の方がいるのですが、彼は70歳を過ぎた今も年間100日も滑っているということでした。私もまだまだだなと思っています。

――運動や食事など、それだけ気を付けているのですから、80歳以上でも滑れそうな気がしますが…。

こればかりはわかりませんね。そもそも寿命を80歳に設定しているし、80歳過ぎても生きて、滑れていればラッキーというくらいで。その前提でスキーライフを設計しています。

今はスキーの年間滑走日数を中心に1年を組み立てていますが、以前はもちろん、スキーから離れて、仕事にまい進して、経営のみに集中した時期もありました。いろいろな時期がありますが、人生は「トータル」で考えることが大切だと思います。

人生の残り時間で、そのバランスを取っていきたいですね。今の時間の使い方としては、スキーと仕事が「6:4」くらいだと考えています。

とはいっても、「4」である仕事について、パフォーマンスを下げないことが何より大事です。組織が私に求めている仕事とその質をしっかり提供することは、今まで以上に気を付けています。経営をしっかり回していくことは大前提ですから。

スキーは天気に大きく左右されますが、天気が大きく影響するには、実はスキーだけでなく、他にもたくさんあります。

例えば、リゾートや観光、ホテルといった事業は、天気に大きく左右されます。台風が来ればキャンセルが出ますし、飛行機も欠航します。雪不足のときのスキー場も売り上げが落ちますよね。

一般的には12月というスキーシーズンのはじまりも、雪が降らなければ延期になりますし、早く降れば、それだけ早くスタートします。農業もそうですが、人間の生活は天気に左右されることを、スキーを通して身をもって感じます。

残りの人生、仕事もスキーも「天気次第」で、その場その場で最大のパフォーマンスを出していきたいと思っています。

星野リゾートの教科書

1,568円

▶︎前編はこちら

「死」から逆算して時間を割り振る。星野佳路の最優先事項とは